定期レポート2012年5月

ソフィア・アイ :キャリアを支える力

 

衆議院議員の石川知裕氏は、言わずと知れた小沢一郎の元秘書です。最近再び話題に なっている例の政治資金規正法違反(収支報告書の誤記載)事件で逮捕され、一審で 有罪判決を受けています。


その新著・『雑巾がけ』(新潮新書刊)が今書店の店頭に並んでいます。サブタイト ルは「小沢一郎という試練」。タイトル通り、学生時代から31歳で国政選挙に出るま での書生〜秘書としての10年に及ぶ過酷な下積み生活が綴られています。現代的な感 覚からすると理不尽なことばかりですが、人が成長する上で何が必要かを改めて学ぶ ことができます。また、ご本人としてはその苦労をさほど苦にしていないところがあり、 思わず笑えるところもあって親しめる著作です。


2004年に氏が国政出馬を決意したとき、案の定小沢氏からは反対されたそうです。
最終的には許しを得たものの、その時小沢氏は政治家の心構えとして次のようなこと を言ったそうです。
  1.自分で考えて決断する
  2.節約の大切さ
  3.経営者感覚を持つこと
これ自体誰でも言える様な適当な内容のようにも思えますが、特に1番目の説明が傑作 です。過去に軽井沢の別荘に同行した際、石川氏が賞味期限切れのレトルトカレーを 勝手に捨ててしまい、ひどく怒られたことがありました。そういうことを小沢氏はよく 憶えていて、このときもそれを引き合いに出し、「あのレトルトカレーにしたって、 賞味期限というのは他人が決めたことだろう。自分で食べて問題なければ、それでいい んだ!」と諭したそうです。


石川氏は最後に、なぜ理不尽な苦労を強いられながらも未だに小沢氏についていくのか という疑問に答えています。
「誰もが認めるところだが、もう四半世紀も小沢さんは政界の中心にいた。そして、 あらゆるトラブルを経た今でも強い影響力を持っている。そのメカニズムを完全に解明 した者はいない。本書に記したのは、メカニズムのごく一部に過ぎず、いまだに私にも 分からないところが数多くある。『小沢一郎』という巨大な謎に向かい合うことが、私 にとっての雑巾がけの意味なのかもしれない」
本書はつまり、単なる小沢一郎との日々の回想譚ではなく、人間の成長について論じた ものなのでした。


政治家を目指しての修業でありながら、実際には日々「雑巾がけ」に類することしかやっ ていない。それでも、10年後には「師匠」の反対を押し切って総選挙に出馬し、現実に 国会議員になった。また事実上身代わりになるような形で逮捕されてもなお、師匠から 学ぶ意志を捨てていない。
その自らの姿を通じて、彼は私たちに、キャリアを支える力の在りようを示唆しています。

 

人事分野には「キャリア・アンカー」という用語があります。提唱したE・シャインは、 これを「個人がキャリアを選択する際に、最も重視する基本的な価値観や欲求」という 意味で使っています。彼はそれをを、「管理能力」、「技術的能力」、「創造性」をは じめ8つの指向性に分類し、その指向性の比重のあり方を分析することを通じたキャリア マネジメントの可能性を示しているのです。
ただ、このようなキャリア論は、個人がある時点で保有している価値観が、その前提になっ ています。そこには、その価値観がどのような経緯で形成されてきたか、もしくは価値観の 形成をどのように導き育てていくべきかといった問題認識は差し当たり存在しません。
ただ、多くの人材は、完成されたキャリア上の指向性を持っているわけではありません。 仕事のスキルを磨いている途上の人もいれば、それどころか経済的に自立できていない 人もいます。ましてや、キャリアの指向性(要するにメンタル面)においては、迷いを抱 えている人が少なくないでしょう。

だとすれば、必要なマネジメントは、自立した個人へのサポートよりもむしろ自立に向け てのサポートということになります。

 

つまり、より本質的な“アンカー”は、ある時点で個人が抱いている価値観ではなく、 その価値観が日々形成され変化していく“力”の中にあると言えるでしょう。
石川氏の著書は、自らの修業生活を通じて、その「力」の在りよう描いているのです。

 


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